45歳以降のリストラはもはやデフォルト・イベントに。現状と対策を整理。

マクロ動向・指標考察

こんにちは。飯田隆太です。(twitter:リュータ)

 

 すでにご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、45歳以降にリストラ(希望退職の応募~整理解雇)する企業が大企業を中心に増えています。今回は、今後の日本におけるリストラのリスクと対策を考えていきたいと思います。

 

2018年から記事執筆時点までに希望退職者を応募した企業(有名な企業を一部掲載)

NEC、エーザイ、千趣会、日本ハム、昭文社、アルペン、カシオ計算機、協和発酵キリン、コカ・コーラ ボトラーズ ジャパン、富士通、レナウン、パイオニア、鳥居薬品、東芝、中外製薬、ルネサスエレクトロニクス

 

そもそもなぜ企業はリストラをするのか

 

 リストラ(希望退職の応募~整理解雇)自体は、企業が業績をよくするための単なる1手法です。

 

 企業の業績ないし利益は、「売上 – 費用」 の計算式以外の何者でもなく、企業活動は売上を向上させるか、費用を削減するかの2つの活動に集約されます。そして、リストラは、費用を削減することにフォーカスします。

 そもそものリストラの原義はリストラクチャリング(企業再編・再構築)であり、企業の収益の向上や利益率の改善のために、事業の立て直し・閉鎖も視野に入れた上であらゆるコストの見直しを行う手法です。 

 

 しかしながら、リストラというと人員削減というイメージが強いのは、企業および経営者の視点に立てば、費用項目としては人件費が最も大きく、(その効果は一時的であるにせよ)人件費を削減することによる効果が大きいためリストラクチャリングの行き着く先は人員削減になるからです。

 

 業種によりさまざまですが、人件費は企業全体の費用の10%~30%程度(飲食店、小売業などが最も高い)であり、費用項目のなかで最も高い割合を占めており、この費用を削減することができれば業績は簡単に向上します。

 

 以下は、経済産業省の平成29年実績調査の結果ですが、費用別に見ると給与項目が費用全体の中で最も高い割合を占めていることがわかります。経営者の視点で立ってこのグラフを見れば、人件費をいかに削減するかを考えるのは自然の摂理であることがわかるでしょう。

 私が以前にコンサルタントとして、名古屋大手のB2B向け機器メーカーや地方スーパーの業務改革に携わったときも、人件費をいかに抑制するかは常に論点でした。またBIG4、FASのバリューアップを行っている人に話を聞いても、最近はリストラの話ばかりだと聞いています。

 

主要産業における費用別売上高に占める割合の一覧

(出所: 経済産業省、「経済産業省企業活動基本調査 平成30年企業活動基本調査確報 -平成29年度実績」 より抜粋)

 

 諸説あるでしょうが端的には、45歳以降にリストラが集中するのは、「人材としてのコスパが悪くなるから」であると考えます。以下は、年齢別の給与カーブですが、同じ仕事を高い給与で行うワーカーであれば、安い給与で新人を雇って置き換えてしまえばいいと考えるのだと思います。

 

年齢別給与カーブ

(出所: 厚生労働省、「平成30年賃金構造基本統計調査」より作成)

 

 

 個々人の差異はあるにせよ、一般的にはモチベーションとキャッチアップ能力(新たに何かを学ぶ力)は年齢とともに低下してきます。若手であれば、当該部署・事業を閉鎖することになったとしても、他部署へ配置転換してすぐにキャッチアップしてもらえますが、年齢が高まるにつれ、そのような使いみちもイメージしづらくなります。

 

 昨今は、RPAやAI技術の進展により、オペレーション的な仕事(端的にいえばただの作業)まわす人は不要となる可能性が高まっています。銀行の事務作業はその最たるもので、RPAやテキスト・画像認識技術の高まりにより、大部分の業務を削減できると言われています。一方で、これらの仕事に長年携わってきた人々は、いきなり他の仕事はできませんので企業にとって最も合理的な選択肢は辞めてもらうことになります。

 

 ある企業で行う施策は、コンサルティング会社や経団連などの経済団体を通じて大企業を中心として広まっていきます。45歳以降でリストラ(希望退職の応募~整理解雇)されるというのは、高確率なイベントであると構えておいたほうがよいと思っています。

 

今後リストラ・リスクは高まる一方

 企業は経営の見通しが悪くなれば希望退職の応募から整理解雇を行っていきます。そして、懸念されるのは日本経済および日本企業の業績の見通しがあまりよくないことです。この点を次は、短期的視点と長期的な視点に分けて見ていきます。

 

短期の見通し: 日本経済は不況(リセッション)にはいった可能性がある

 

少し小さいですが、以下は、実際の日銀短観の2019年6月調査の抜粋になります。折れ線が、大・中堅・中小企業のそれぞれの景況感を示しており、グレーに色分けされている箇所が実際に不況であった時期です。企業の景況感が下り坂を迎えるのを追うようにして、実際に不況の時期を迎えていることがわかります。 

 

日銀短観 – 2019年6月調査

(日本銀行HPより抜粋)

 

 グラフを見てわかるとおり、業況判断は下り坂に入り始めており、日本経済は既に景気後退期にはいった可能性があるとみています。また次で見でいくとおり、長期的にも日本経済はマイナスの要因が多いので、企業の業績は伸び悩むのではないかと考えております。


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日銀短観とは

 日銀短観とは、日本銀行が年4回(3、6、9、12月)、景気の現状と先行き(景況感)について企業に直接アンケート調査をし、日本の経済を観測するものです。正式には「企業短期経済観測調査」といいます。調査では全国の大手企業と中小企業、製造業と非製造業などで分けて、約1万社以上を対象に、業績や状況、設備投資の状況、雇用などについて実績と今後の見通しを聞きます。

 

 日銀短観は、 日本市場への投資では、最も重要な経済指標ともいわれています。その理由は、日本政府の発表するGDPなどの公式データは、(よくも悪くも最近は公に取り沙汰されることが当たり前になってしまいましたが)米国などの政府統計に比べて信用度が低いからです。それに対して、日銀短観は国外でも”Tankan”の名が定着するほど信用され、参照されています。

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長期の見通し: 減り続ける日本の人口 と増税による消費の低下

 

 長期的に見ても、日本経済に見通しはよくありません。新たな成長市場や海外市場にはいっていけずに国内の既存のビジネスだけをしている、大半の企業の業績は悪くなっていくように思えます。

 

 経済の刺激政策である低金利を行い続けていても、日本経済のGDP成長率(実質)は先進国の中で最低レベルです。

 

 GDPの内訳データで見ても民間最終消費は目立って増えていないことから国内市場は近年伸び悩み続けてきました。通常は増税前は駆け込み需要として、消費が伸びるのですが、今回は駆け込み需要が見られません。私的には、これは可処分所得の低下による民間の消費力が低下していることに寄与していると考えており、増税は更に追い打ちをかけるのではと考えています。

 

 国内市場は今後はこれに加えて、人口減少の加速と増税が相まって、多くの企業の業績は悪化していくと考えています。

 

 

各国の実質GDP成長率の推移 (2019以降は予測)

(出所: IMFより、2019年7月23日時点に取得したデータで作成)

 

日本の名目GDPの推移

(出所: 内閣府、2017年度国民経済生産より作成)

 

日本の人口推移 (2018年以降は予測)

(出所:国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来人口推計」(平成29年)より作成)

 

リストラに対する対策一覧

 

 リストラのリスクは高まる一方であることをここまで見てきました。現状を踏まえたうえで取るべく対策の一覧をまとめてみたいと思います。リストラに関連して求められるアクションは、以下の3つに集約されるかと思います。

 

  1. リストラされるリスクをへらす
    • 「使える」、「つぶしが効く」人になる
      • 汎用性の高いスキルである、英語、会計、ITなどを身に着けておく
      • 語れる実績をつくっておく
        (もしくは「知っているキャラ」として振る舞う)

    • 他の人の入りにくい「聖域」をつくる
      • やっかいな「案件」、「顧客」を取り扱える人
      • 専門知識・スキルが必要な業務ができる人

    • 会社の上司、同僚に気に入られる
      • 解雇要員のリストをつくる際には、孤立していたり、「一緒に働きにくい」とおもわれる人がリストにあがりやすい
      • またモノを言わない、おとなしいタイプの人も候補にあがりやすい

    • 業績が良い・将来性が良い会社に今のうちに転職する
      • 業績がよければリストラをする必要性は低下しますので、
        これも有効な選択肢です。
  2. リストラされてもすぐに転職できる準備をしておく
    • 「使える」、「つぶしが効く」人になる
    • 語れる実績をつくっておく

  3. 他の収入源を確保しておく
    • 副業
    • 投資(特に海外の成長にのっかった積立投資など)

 

 この中で1~2は、多くのサイトでよく言われることですので割愛しますが、3についてもう少し触れておきます。

 

 リストラの可能性が高まり、日本人ひとりひとりの経済的なリスクが高まっている背景は、日本企業の業績の見通しがよくなく、更に原因を追えば、日本経済の見通しが良くないからです。しかしながら、世界に目を移せば、世界の人口は増え続け、経済成長をし続けることが予想されています。控えめにみても、世界の人口はで、今後2050年までに年平均1.1%ずつ成長していくことが予想されており、経済も準じて成長していくでしょう。

 リストラされたときに困るのはお金がないからです。若いうちから早めに投資をしておき、45歳までにある程度の金融資産を用意しておくことで、もしリストラされて収入がなくなってしまったとしても、金利による副収入を確保できたり、収入が一気に減ってしまったとしてもリタイアするタイミングが少し先延ばしにするくらいの調整で対応することができます。世界経済の成長に投資をしていくことは、リストラのリスク対策としても、老後に向けての資産形成を早める上でも一つの回答であると思っております。

 

 世界人口予測(国連データ)

 (Ourworldindataより図を抜粋。元データは国連の2019年予測。以下の世界人口予測のデータのUN Medium Variantがいくつかのシナリオのうち妥当性が高いとされる国連の予測)

 

 

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