Disclosure – 開示

会社法に規定されている情報開示制度は、株主・債権者の利益保護を主たる目的としている。しかし、会社法上の情報開示制度は、その情報を入手できる者に制限
があり、本来、会社が発行する有価証券に関する投資者の保護を目的としたものではないため、有価証券の発行や流通における情報開示としては不十分である。
そこで、金融商品取引法は会社法の特別法として、主として上場している株式会社が発行し市場に流通させる有価証券について、投資者の保護を目的としてさまざ
まな規定を施している。

金融商品取引法は、「企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保するこ
と等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形
成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資すること」を目的としている(金融商品取引法第1条)。

金融商品取引法に違反した者は民事責任(損害賠償責任)を負い、一定の場合には刑事責任(罰金・懲役刑)が科される。また、一定の場合には課徴金(国庫に対
して金銭を納付する行政上の措置)を納付する義務を負う。

金融商品取引法には情報開示のためのさまざまな書類作成・提出義務が規定されているが、試験対策上は、提出先は内閣総理大臣と覚えてしまって構わない。
なお、平成26年5月30日に公布された改正金融商品取引法により、虚偽の開示を行った上場企業が流通市場の投資家に負う損害賠償責任について、無過失責任か
ら過失責任に変更される(金融商品取引法第21条の2)。ただし、立証責任は上場企業(開示企業)が負う(上場企業が、自己の無過失を立証しなければならない)。

情報開示に関する規定には、企業内容等の開示や公開買付けに関する開示などがある。

1 企業内容等の開示

企業内容等の開示は、大別すると、新たに有価証券を発行する場合に開示が義務づけられる発行市場における開示(=発行開示)と、すでに市場で流通している有
価証券の発行会社に開示が義務づけられる流通市場における開示(=継続開示)の2つに分類できる。代表的なものについて説明する。

[1]発行市場における主な開示書類(発行開示)

● 有価証券届出書(金融商品取引法第2条7項、5条)

有価証券届出書とは、一定の要件に該当する有価証券の募集または売出しを行う発行者が、当該募集または売出しに関する事項(=証券情報)と発行会社の属する
企業集団。当該会社の経理の状況その他の事業の内容に関する重要事項(=企業情報)などを記載して、内閣総理大臣に提出しなければならない書類のことである。

1)募集と売出し

募集とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を50人以上に対して行うことなどをいう(金融商品取引法第2条3項1号、同法施行令第1条の5)。募集株式の発行が典型例である。
売出しとは、すでに発行されている有価証券の売付け・買付けの申込みの勧誘を、50人以上に対して行うことをいう(金融商品取引法第2条4項、同法施行令第1条の8第1項)。大株主が所有している株式の売付けが典型例である。

2)公募と私募

募集は一般的には公募と私募に分類されるが、金融商品取引法上は、募集の要件に該当しないものを私募といい、それ以外を単に募集という。金融商品取引法上、公募という文言は用いられていない。
私募はプロ私募と少人数私募に分類される(特定投資家向け取得勧誘という類型もあるがここでは割愛する)。この分類は非常に複雑だが、簡単にいえば、プロ私募は、勧誘の相手方の人数にかかわらず、適格機関投資家(証券会社、銀行、保険会社、有価証券残高10億円以上の法人、有価証券残高10億円以上かつ口座開設後1年経過の個人など)のみを相手方とし、かつ適格機関投資家以外の者に譲渡(転売)されるおそれが少ないものなどをいう(金融商品取引法

第2条3項2号イ)。

少人数私募は、勧誘の相手方が50人未満で、かつ当該有価証券が取得者から取得者以外の多数の者に譲渡(転売)されるおそれが少ないものなどをいう(金融商品取引法第2条3項2号ハ)。

プロ私募または少人数私募に該当する場合、有価証券届出書の提出義務はない。

なお、勧誘の相手方の「50人」という人数は、過去6か月以内の人数を通算して判断される。これを6か月通算ルールという。

3)有価証券届出書を義務づけられる者

原則として、募集または売出しにつき、発行価額・売出価額の総額が1億円以上の場合に、発行者は有価証券届出書の提出義務を負う。

4)有価証券届出書の効力

有価証券届出書は、原則として内閣総理大臣が受理した日から15日経過後に効力が発生する(金融商品取引法第8条1項)。発行者は、有価証券届出書

提出前に投資者に対して勧誘を行うことができず(金融商品取引法第4条1項)、効力発生前には、勧誘はできても契約を締結することはできない(金融

商品取引法第15条1項)。

5)公衆の縦覧

有価証券届出書は、原則として内閣総理大臣が受理した日から5年間、公衆の縦覧に供しなければならない(金融商品取引法第25条1項1号)。

② 目論見書(金融商品取引法第13条)
目論見書とは、発行者などが、有価証券届出書とほぼ同じ内容を記載して投資者に直接交付しなければならない書類のことである。

有価証券届出書は公衆の縦覧に供されるが、投資者が必ずしもこれを見るとは限らない。そこで、投資者保護のために、 1億円以上の有価証券の募集・売出しを行う発行者は、有価証券届出書とほぼ同じ内容を記載した目論見書を作成・交付しなければならない(金融商品取引法第2条10項、13条、15条2項)。発行者や証券会社などは、投資者に有価証券を売付ける場合などには、原則として、あらかじめまたは同時に目論見書を投資者に交付しなければならない。

[2]流通市場における主な開示書類(継続開示)

● 有価証券報告書(金融商品取引法第24条)

有価証券報告書とは、上場会社などが、当該会社の属する企業集団、当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項を記載した書類のことである(女性役員の比率を含む)。有価証券報告書は、事業年度経過後3月以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。また、内閣総理大臣が受理した日から5年間、公衆の縦覧に供しなければならない(金融商品取引法第25条1項4号)。

記載事項のうち経理の状況には、連結・個別の財務諸表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書など)が記載され、これらは公認会計士または監査法人の監査証明を受けたものでなければならない(金融商品取引法第193条の2第1項)。

② 四半期報告書(金融商品取引法第24条の4の7)

四半期報告書とは、_L場会社などが、四半期終了ごとに企業・事業の概況、四半期連結財務諸表等を記載して、内閣総理大臣に提出しなければならない書類のことである。

四半期報告書は、四半期経過後45日以内に内閣総理大臣に提出しなければならない。また、内閣総理大臣が受理した日から3年間、公衆の縦覧に供しなければならない(金融商品取引法第25条1項7号)。

なお、有価証券報告書を提出する場合、四半期報告書の提出は不要である。

臨時報告書(金融商品取引法第24条の5第4項)

臨時報告書とは、有価証券報告書提出会社が、投資判断に重要な影響を及ぼす一定の重要事実(災害、訴訟の提起、企業Fll編、倒産手続開始など)が発生した場合、その内容を記載して、内閣総理大臣に提出しなければならない書類のことである。臨時報告書は、一定の重要事実が発生した場合、遅滞なく内閣総理大臣に提出しなければならない。また、内閣総理大臣が受理した日から1年間、公衆の縦覧に供しなければならない(金融商品取引法第25条1項10号)。

内部統制報告書(金融商品取引法第24条の4の4)

内部統制報告書とは、上場会社などが、財務報告に係る内部統制の基本的枠組、内部統制の評価の範囲・基準日・評価手続・評価結果等を記載して、内閣総理大臣に提出しなければならない書類のことである。

内部統制報告書は有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。また、内閣総理大臣が受理した日から5年間、公衆の縦覧に供しなければならない(金融商品取引法第25条1項6号)。また、公認会計士または監査法人による監査証明(内部統制監査)が義務づけられている。

なお、平成23年3月29日に内部統制報告制度が改定され、「重要な欠陥」という文言が「開示すべき重要な不備」に言い換えられた。「重要な欠陥」とすると、「会社全体に欠陥があるとみなされる」という企業からの指摘があったためであり、文言を換えただけで、定義は変わらない(「開示すべき重要な不備」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い財務報告に係る内部統制の不備をいう)。
また、平成26年5月30日に公布された改正金融商品取引法により、新規上場後3年間は、内部統制報告書に対する公認会計士(監査法人)の監査証明の免除を選択できるようになる(金融商品取引法第193条の2第2項)。

2 公開買付けに関する開示

公開買付けはM&Aの手法の1つであり、一般的にはTOB(Take Over Bid)と呼ばれる。金融商品取引法では、公開買付けとは、不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付けの申込みなどを行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行うことと定義されている(金融商品取引法第27条の2第6項)。

[1]公開買付けが強制される場合(金融商品取引法第27条の2第1頂)

上場会社等の有価証券報告書提出会社が発行する株券等を、当該上場会社以外の者が取引所市場外で買付け等を行う場合に、公開買付けが適用される。
通常、買付け後の株券等所有割合(議決権の割合と考えて差し支えない)が5%超となる場合は、公開買付けが強制される。また、市場内取引であっても、買付け後の株券等所有割合が3分の1超となる一定の場合にも、公開買付けが適用される。

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