Patent Laws – 特許法

特許法は、発明に関する法律である。

1 特許法に関する基礎知識

[1]特許法の目的(特許法第1条)

特許法の目的は「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」である。
すなわち特許法には、発明者に、発明という新技術を公開させる代償として、特許権という独占権を与えてその保護を図るという機能と、公開された発明を第二者
に利用する機会を与えるという機能がある。この両方の機能を調和させて技術の進歩を促し、産業の発達に役立てることが特許法の目的である。

[2]発明(特許法第2条1頂)

特許法では、発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものと定義している。

01 自然法則を利用
自然法則とは、自然界で経H,実的に見出される科学的な法則のこと。人間が決めたルールや万有引力の法則などの自然法則そのものは、自然法則を利用しているとはいえない。

[3]発明の分類(特許法第2条)

特許法では、発明を物の発明と方法の発明に分けている。さらに、方法の発明を物を生産する方法の発明と物の生産を伴わない方法の発明に分けている。

1)物の発明…機械、器具、装置、医薬、化学物質、コンピュータプログラムなど
2)物を生産する方法の発明…医薬の製造方法、食品の加工方法など
3)物の生産を伴わない方法の発明…測定方法、分析方法など

[4]発明者

発明者とは、発明を完成させた者のことである。特許法では発明者に特許を受ける権利が発生する(特許法第29条)。

[5]特許を受ける権利

特許を受ける権利とは、国家(特許庁)に対して特許権の付与を言青求することができる権利のことである。出願から審査請求、登録等の一連の手続をすることができる権利と考えておけばよい。

発明と同時に発生し、発明は自然人にしか認められないため、自然人である発明者にのみ発生する(法人に特許を受ける権利が発生することはない)。
ただし、特許を受ける権利は財産権でもあるため、他人に移転することができる。
法人は特許を受ける権利を承継することにより、特許出願をすることができる。なお、特許出願は自然人・法人に認められ、組合契約などによる法人格のない団体は特許出願をすることができない。

[6]特許要件

発明が、特許法による保護に値するものとして特許を受けるためには、以下の特許要件を満たさなければならない。

① 産業上の利用可能性があること(特許法第29条柱書)
特許法の目的は産業の発達にあるので、産業上利用できることが必要である。産業とは、工業だけでなく、農林水産業、サービス業、運輸業などの生産を伴わ
ない産業も含む。また、実験段階などで実際に利用できないものは利用可能性を欠き特許を受けることができない。

② 新規性があること(特許法第29条1項)

創作を要件としていることから新規性が求められる。次のような場合は、新規性がないものとして原則として特許を受けることができない。

特許出願前に国内または国外で、
1)公然と知られた(=公知)発明(テレビでの放映など)
2)公然と実施された(=公用)発明(店頭での販売、製造工程の不特定者見学
など)
3)頒布された刊行物に記載されたり、電気通信回線(インターネットなど)を
通じて公衆に利用可能となった発明

③ 進歩性があること(特許法第29条2項)
たとえば、公知技術を寄せ集めただけのものや、他の技術へ転用したにすぎない
ものなど、その分野の技術者が効果を容易に予測できる場合には、進歩性がないも
のとして、特許を受けることができない。

④ 先願の発明であること(特許法第39条)
同一の発明について複数の出願がされた場合、我が国の特許法では先願主義を採用している。先願主義とは、複数の出願のうちlil初に出願した者に特許権を付与する考え方である。

また、我が国の特許法では、
1)同一の発明について異なった日に2以上の特許出願があったときは、最先の特許出願人のみが特許を受けることができる。

2)同一の発明について同一の日に2以上の特許出願があった場合は、時間の先後に関係なく特許出願人の協議により定めた出願人一名だけが特許を受けることができる。協議が不成立の場合には、誰も特許を受けることができない。

と定められている。
⑤ 反社会的な発明でないこと(特許法第32条)
公序良俗または公衆衛生を害するおそれのある発明は特許を受けることができない。

2 特許権の取得手続

発明しただけでは保護されない。発明が特許として保護されるためには、特許法に定める手続を踏まなければならない。

[1]出願(特許法第36条)

特許権を取得するためには、特許を受ける権利のある者(発明者またはその承継人)が以下の書類を特許庁長官に提出しなければならない。

・願書(出願人の氏名・名称、住所居所など)
・明細書
・特許請求の範囲
・要約書
・必要な図面(任意)

● 明綱書

明細書への記載事項には以下のものがある。

1)発明の名称
2)図面の簡単な説明
3)発明の詳細な説明

② 特許請求の範囲
特許の「権利書」にあたる.請求項(クレーム)に区分して、発明を1寺定するために必要な事項を記載する書類である。侵害訴訟において、特許発明の技術的範囲の基準となるものである(特許法第70条1項)。

特許請求の範囲について、「発明の詳細な説明」に記載したものであること、特許を受けようとする発明が明確であること、および請求項ごとの記載が簡潔であることなどが必要である。

また、 1つの請求項に記載される発明と、その発明に対して一定の技術的関係を有する発明については、 1つの願書でまとめて出願できる(=出願の単一性:特許法第37条)。

0 新規性喪失の例外(特許法第30条)
特許出願前に国内または国外で公然と知られた発明は、新規性を喪失したものとされ、特許要件を欠くことになる。しかし、新規性を喪失したものについて、公表日から6月以内に例外規定の適用を受けたい旨の書面などを特許出願と同時に提出し、かつ出願日から30日以内に公表などの事実を証明する書面(証明書)を提出すれば、新規性喪失の例外として、特許を受けることができる。

具体的な要件は以下のとおりである。

1)特許を受ける権利を有する者(本人)の行為による公知・公用・刊行物への記載など(試験等に限定されない)。
2)特許を受ける権利を有する者(本人)の意に反する公知・公用。刊行物への記載など(本件については証明書の提出は不要)

[2]方式審査

出願書類が特許庁長官に提出されると、特許法で定める手続的・形式的要件を満たしているか審査され、所定の要件に従っていない手続については補正が命じられる。また、却下処分になることもある。

[3]審査請求(特許法第48条の3)

出願しただけでは審査は行われることはなく、審査請求があってはじめて審査が行われる(=審査請求制度)。出願審査請求は、特許出願人に限らず誰でも請求することができる。
出願日から3年以内に審査請求がない場合は、出願は取り下げたものとみなされる。

なお、平成26年5月14日に公布された改正特許法により、災害(海外のものも含む)等のやむを得ない事由が生じた場合に手続期間の延長を可能とする等の救済措置の整備が行われる(特許法第108条4項他)。
具体的には、特許法等に基づく手続をする者の責めに帰することができない事由(理由)が生じたときは、その手続期間を一定の期間に限り延長することができるようになる。実用新案法、意匠法、商標法にも同様の規定が設けられる。

一定の期間とは、原則として、その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては、2月)以内で、その期間(=本来の期間という意味)の経過後6月以内である。ただし、審査請求については、審査請求をすることができなかったことについて正当な理由があるときは、その理由がなくなった日から2月以内で、審査請求期間(=出願から3年以内)の経過後1年以内となる(特許法第48条の3第5項)。

[4]実体審査(特許法第47条、49条他)

審査請求された出願は、特許庁審査官によって審査が行われる。審査官が、拒絶理由があると判断した場合は、出願人に拒絶理由を通知し、出願人は意見書を提出する機会を与えられることになっている。出願人はその意見書で、拒絶理由に反論するか、拒絶理由を解消するため、特許請求の範囲の減縮・削除・誤記訂正の補正などをして対処する(新規事項の追加は不可)。

拒絶理由が解消されない場合には、拒絶査定が行われる。この査定に不服がある場合には、拒絶査定謄本の送達の日から原則として3月以内であれば、拒絶査定不服審判を請求できる。さらに、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起できる。

[5]出願公開(特許法第64~65条)

出願日から1年6月経過すると、特許出願を特許公報に掲載することにより出願公開される。出願公開は、第二者の研究・投資の重複を防止し、社会のさらなる発展を促すが、出願者にとっては、他人の模倣というリスクが発生する。このため、出願公開後に第二者が業としてその発明を実施した場合、その特許出願者は、その第二者に対して補償金を請求することができる(=補償金請求権)。また、補償金請求権を早期に得るために、出願人の任意での出願公開請求が可能となっている。

[6]特許査定。設定登録

審査官は、拒絶理由がない、または解消した場合に特許をすべき旨の特許査定を行う(特許法第51条)。

特許査定謄本が出願人に送達された日から原則として30日以内に所定の特許料を納付(初回に限り第1年~第3年分を一括納付)すると特許権の設定登録がなされ、特許公報に掲載される(特許法第66条、108条)。

[7]特許無効審判(または延長登録無効審判:特許法第123条他)

特許無効審判とは、特許要件の規定違反や不特許’11111に該当する場合に、その特許を無効とする審判を特許庁長官に品求する制度である。従来、特許無効審判は、いつでも誰でも請求可能であったが、平成26年5月14日に公布された改正特許法により、利害関係人のみ、いつでも可能というように改正される。

[8]特許異議の申立て(特許法第113条他)

従来、産業財産権では商標法のみ登録異議申立て制度が規定されていたが、平成26年5月14日に公布された改正特許法により、特許法でも異議の申立貌態1度が創設される(注:特許法では「特許」異議申立てという)。

特許法では、何人も(=誰でも)、特許公報発行から6月以内に限り、特許庁長官に対し、特許異議の申立てをすることができる。

3 特許権の効力と制限

[1]特許権の効カ

特許法は特許権の効力について「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」と規定している(特許法第68条)。権利を専有するとは、第二者の侵害を排除し、特許発明を独占的。排他的に実施できることを意味する。

特許発明の実施(特許権の効力が及ぶ行為)とは、具体的には以下のことである

(特許法第2条3項)c

1)物の発明の場合

その物(プログラム等を含む)の生産、使用、譲渡等(譲渡および貸渡しをいい、インターネットを通じたプログラム等の提供を含む。以下同じ)、輸出・輸入または譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ)をする行為

2)物の生産を伴わない方法の発明の場合
その方法を使用する行為

3)物を生産する方法の発明の場合
その方法を使用する行為、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出。輸入または譲渡等の申出をする行為

特許権者(他の産業財産権者も同様)は、特許権の侵害者に対し、差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求、信用回復措置請求をする権利がある。くわしくは第3節で、産業財産権全般について解説する。

[2]特許権の制限(特許法第69条)

以下の行為には特許権の効力は及ばない。したがって、特許権侵害にもならない。

● 試験研究のためにする実施

他人の特許発明の技術的効果を試験研究するための実施は、形式的には特許権侵害にあたるように見えるが、むしろ技術を高め、産業を発展させる。そこで、特許

法は、試験研究の場合には、そもそも特許権の効力は及ばないとしている。

② 医師などの処方せんによる調剤行為または調剤する医薬
医薬品の調剤行為や調剤による医薬品が、特許権の侵害となることもありうる。しかし、医師または歯科医師に、処方せんを書く前にその事実の調査をさせることは、医療を萎縮させ、傷病を負った人の回復を最優先事項とする医療の目的に反する。そこで、医師または歯科医師の処方せんによる調剤行為・調剤する医薬については、特許権の効力は及ばない。なお、医療行為(手術、治療、診断など)はそもそも発明に該当しない(医療機器、医薬自体は発明の対象である)。

[3]特許権の存続期間(特許法第67条)

特許権は登録により発生し、特許出願の日から20年存続する。ただし、農薬や医薬品といった行政庁の許可を得るのに期間を要する場合は、5年を限度とする延長が認められている。

特許権の消滅事由には以下のようなものがある。

1)存続期間の満了(特許法第67条)
2)特許料の不納(特許法第112条4~ 6項)
3)特許無効の審決の確定(特許法第125条)
4)放棄(特許法第97条)
5)相続人の不存在(特許法第76条)

4 その他特許権に関する知麟

[1]特許権の活用

特許権者は、特許権を自ら実施するだけでなく、以下のような活用方法がある。

● 特許権の移転(特許法第98条1項1号)

特許権は財産権であるので、他人に譲渡(贈与・売却)することができる。また、相続・合併などによる承継の対象になる。移転の効力は、相続その他の一般承継の場合を除き、登録により発生する。

② 専用実施権と通常実施権

特許権者は、他人に特許発明をライセンスして、ロイヤリティを得ることができる。他人に特許発明を利用させる権利を実施権という。その形態として、専用実施権と通常実施権の2つがあり、また、通常実施権には、許諾による通常実施権・法定通常実施権・裁定通常実施権の3つがある。

1)専用実施権(特許法第77条、98条1項2号)
専用実施権とは、設定した範囲(期間、地域、実施範囲など)において、その特許発明を排他独占的に利用できる権利である。専用実施権は、物権的権利であり、当事者の設定契約および設定登録が必要である◇
また、専用実施権では、設定契約で定めた範囲では特許権者といえども実施できない。つまり、発明者(特許権者)が他者に専用実施権を付与してしまうと、設定契約で定めた範囲では発明者自身もその発明を利用することができなくなる。このように、特許権者は自己実施を制限されるデメリットはあるが、専用実施権者に特許権者と同等の権利を付与する対価として、高額のロイヤリティを得られるというメリットがある(一般的に、許諾による通常実施権よりも専用実施権のロイヤリティのほうが高額である)。

2)通常実施権

a)許諾による通常実施権(特許法第78条)

実施許諾契約で定めた範囲内で特許発明を実施できる権利である。専用実施権とは異なり独占性がなく、特許権者は許諾した特許発明を自らも実施することができ、他人に重複して通常実施権を許諾することができる。

b)法定通常実施権

当事者の契約ではなく、 ‐定の要件を満たすことにより法律上当然に発生する通常実施権のことである。後述する職務発明の場合に使用者等に認められる無償の通常実施権、先使用権、中用権などが該当する。

c)裁定通常実施権(特許法第83条、92・93条)

特許庁長官、または経済産業大臣の裁定で強制的に設定することにより発生する通常実施権である。不実施(3年以上)の場合・自己の特許発明を実施するための場合・公共の利益のための場合の3つがある。
通常実施権は専用実施権と異なり登録不要である。登録しなくても、通常実施権は発生すれば対抗要件を満たす(=当然対抗制度。特許法第99条)。当然対抗制度により、登録しなくても、通常実施権者は、特許権が譲渡されたり、専用実施権が設定された後でも引き続き特許を実施することができる。

ただし、専用実施権者と異なり、通常実施権者には特許権を侵害する第二者に対して差止請求や損害賠償請求をすることは、原則として認められていない。

0 仮専用実施権と仮通常実施権(特許法第34条の2、34条の3)

特許出願段階(特許権発生前)のライセンスを保護するための制度である。特許を受ける権利を有する者(発明者や特許出願人)は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権の設定および仮通常実施権の許諾をすることができる。仮専用実施権および仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定登録があったときは、その特許権について、専用実施権の設定およ
び通常実施権の許諾があったものとみなされる。

簡単にいえば、出願中でまだ特許権発生前の発明について、専用実施権および通常実施権の予約を認める制度である。特許権が発生すれば、仮専用実施権および仮通常実施権は、専用実施権および通常実施権に移行する。内容的には専用実施権および通常実施権とほぼ変わらない

0 質権の設定(特許法第95。96条)
特許権・実施権には質権を設定できる。民法上の質権と異なり、質権者に対して特許権。実施権を提供する必要はなく、特許権者は質権設定後も特許発明を実施で
きる。逆に、質権者は、特約がなければ実施することはできない。

特許権および専用実施権を目的とする質権の設定には登録が必要である(特許法第98条1項3号)。通常実施権を目的とする質権の設定には登録は不要である。

なお、専用実施権に質権を設定するためには特許権者の承諾が、通常実施権に質権を設定するためには原則として特許権者(専用実施権についての通常実施権の場合は特許権者および専用実施権者)の承諾が、それぞれ必要である。

また、特許を受ける権利には質権を設定できない(特許法第33条2項)。したがって、仮専用実施権および仮通常実施権にも質権を設定できない。

[2]共同発明(特許法第38条)

共同発明とは、複数の者が共同して完成させた発明のことである。たとえば、企業内でプロジェクトチームを組んで、ある発明をすると、特許を受ける権利はチーム構成員全員の共有となる。
特許を受ける権利は不可分であるので、特許出願は共同でしなければならない。また、特許権が共有となっている場合、各共有者は、他の共有者の同意がなければ、持分の譲渡や専用実施権・通常実施権などの設定・許諾をすることができない(特許法第73条)。なお、それぞれの共有者が自分で特許を実施することは、原則として自由である。

[3]職務発明(特許法第35条)

職務発明とは、従業者等(従業者、法人の役員、国家公務員または地方公務員)の発明であって、その性質上、使用者等(使用者、法人、国または地方公共団体)の業務範囲に属し、かつその発明をするに至った行為が、その使用者等における従業者等の現在または過去の職務に属する発明のことである。たとえば、企業の製品開発の一環としてなされた従業者の発明などが職務発明にあたる。したがって、従業者等の発明であっても、職務によらない、私生活上でなされた発明(「自由発明」という)は職務発明に該当しない。

特許を受ける権利は、発明者である従業者等にある。しかし、職務発明は、企業活動の一環としてなされ、企業は研究開発費の投資など一定の貢献をしている。そこで、次のような制度が認められている。

1)職務発明について従業者等またはその特許を受ける権利の承継人が特許を受けたときは、使用者等は無償の通常実施権をもつ。

2)使用者等は、就業規則など勤務規則に、あらかじめ、「特許を受ける権利の承継」「特許権の承継」「(仮)専用実施権の設定」を定めることができる。この定めに従い、使用者等がこれらの権利を受けた場合は、従業者等は「相当の対価」の支払を受ける権利をもつ。

3)対価について、当事者間で自主的に定めたところにより対価を支払うことが不合理でない場合は、その定めによる対価が「相当の対価」となる。

4)対価について当事者間の定めがない場合、あるいはその定めが不合理と認められる場合には、「相当の対価」の額は、その発明により使用者等が受けるベき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担・貢献・従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。最終的には訴訟において「相当の対価」が算定される

[4]先使用権(特許法第79条)

先使用権とは、特許出願に係る発明の内容を知らない(=善意)で自らその発明をし(または善意の発明者から知得して)、特許出願の際、現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者(またはその事業の準備をしている者)に対して、その実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内において、特許権の発生後も引き続きその発明を業として実施できる無償の通常実施権のことである。

[5]中用権(特許法第80条)

中用権とは、無効審判の請求登録前の善意の実施者に認められる有償の通常実施権のことである。

特許権者が後願であるなどのために本来は特許を受けることができない場合に、誤って特許を受けることがある。その場合、先願の特許権者に特許無効審判を請求され後願の特許が無効になると、後願の特許権者は当該特許を実施することはできない。しかし、いったんは特許を受けた者への特許庁の行政処分に対する信頼は保護する必要がある。そこで、自らの特許が無効であることを知らないで(=善意)特許を実施している者には中用権が認められ、特許権侵害とはならず、引き続き当該特許を実施することができる。ただし、中用権は有償であり、特許権者に対して相当の対価を支払う必要がある。

[6]用尽論(消尽論)

用尽論とは、特許発明の実施品の製造・販売が正当に行われた後は、特許権は用い尽くされたものとなり、もはや同一物につき特許権者は特許権を行使することができないという理論である。特許法上の明文はないが、原則として知的財産権全般に適用される。なお、半導体集積回路の回路配置に関する法律(半導体チップ法)および著作権法においては明文化されている(半導体チップ法第12条3項、著作権法第26条の2第2項など)。

[7]移転請求権(特許法第74条1頂他)

「特許を受ける権利」を有しない者が、不正・違法な出願をすることがある。例として、以下のようなものがある。

1)「特許を受ける権利」を有する者が試験等の理由で発明の内容を公表した。

この時、新規性喪失の例外規定の要件を満たせば、公表後でも真の権利者(発明者または特許を受ける権利の承継人のこと)は出願可能であるが、その出願より先に、この公表を見た第二者が当該発明を自己の発明と偽って出願してしまうことがある。この場合、当該第二者は「特許を受ける権利」を有していないため、この出願自体は違法である(冒認出願という)。一方で真の権利者も特許を受けることが難しくなる。

2)共同発明は、本来は全員で出願しなければならないが、ある者が他の発明者に無断で単独で出願した場合、この出願は共同出願違反となる。

このような場合に真の権利者の保護を図るため、移転請求権が規定されている

具体的には、真の権利者は、冒認出願または共同出願違反によって冒認者等が特許権を取得した場合、移転請求権を行使して、その特許権を取り戻すことができる(特許権者に対して特許権の移転を請求することができる)。真の権利者への特許権の移転登録がされた時、当該特許権は当初から真の権利者に帰属していたものとみなされる。

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