配当利回りが5.26%のアサヒホールディングス(5857)、急速に悪化するCFが懸念材料

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こんにちは。飯田隆太です。(twitter:リュータ)

 

 今回は、配当利回りが5.26%(2019年9月8日付、SBI証券)のアサヒホールディングス(5857)を分析しました。皆様の参考になれば幸いです。

 

アサヒホールディングス(5857)とは

 アサヒホールディングスは、①金・プラチナなどの貴金属リサイクル事業、②産業廃棄物処理事業、③マッサージチェアなどをはじめとした健康器具や健康飲食製品のライフ&ヘルス事業の3事業を営む企業です。

 

 なお、最初は私も間違えたのですが、ビールや飲食事業を営むアサヒグループホールディングスとは全く別の企業です。

 

 上述の3事業それぞれの売上高の推移は以下のとおりです。貴金属事業が中核をなしています。ライフ&ヘルス事業、環境保全事業は横ばい、貴金属事業は2017年に大きく売上高を落とし、それ以降は回復してきています。

 

セグメント別売上高の推移

(出所: 同社財務諸表より作成。会計基準はIFRS)

 

 

売上高、当期利益率の推移など

 

 売上高の推移はまずまずといったところですが、当期利益は2017年は赤字になっているのが目立ちます。

 また、改善した2018年を見ても営業利益率は11~12%前後、当期利益率は7~8%とそこまで高くはない数値です。環境保全事業を営む同業他社のタケエイなどを見ても、営業利益率は8%程度であったりと、業界特性もあるのでしょうが、利益率が低いという点は投資先として好ましくありません。

 

売上高、当期利益などの推移

(出所: 同社財務諸表より作成。会計基準はIFRS)

キャッシュ・フロー、現預金の推移

 

 キャッシュ・フロー推移です。

 すぐに目につく点として、2018年と2019年で営業キャッシュ・フローが大幅にマイナスになっています。これは、本業からのキャッシュを回収できていないことを意味しており、大きな懸念事項です。

 先程は2018年以降の売上高~当期利益は伸びていることを確認してきましたが、売上高~当期利益はあくまで会計上の利益であって、実際には資金回収が遅れていることを意味しており、これは大きな懸念事項です。

 

キャッシュ・フローの推移

(出所: 同社財務諸表より作成。会計基準はIFRS。フリーCFは営業CFと投資CFの和で計算)

 

 営業CFがマイナスになっている理由としては、各種回転日数が大幅に伸びてしまっていることが背景にあります。

 以下に見るように、2018年以降に「在庫仕入れ⇒販売⇒代金回収」(オペレーティング・サイクル)にかかる日数が、急激に悪化していることがわかります。これは先程既に見た、営業CFの悪化とタイミングが同じであることから、オペレーティング・サイクルの悪化が同社の営業CFを悪くしている原因だといえます。

オペレーティング・サイクル: 売掛金、棚卸資産、債務 回転日数の推移

(出所: 同社財務諸表より作成。会計基準はIFRS。また2016年の各回転日数の分母は平均残高ではなく、期末の数値を使用)

 各用語の説明です。

①売掛金回転日数: 
掛けで販売した未回収の代金をどの程度の日数で回収出てきているかを意味します。

②棚卸資産回転日数: 
在庫を仕入れてから、販売するまでどの程度の日数で、販売できているのかを意味します。

③オペレーティング・サイクル(営業循環日数):
①売掛金回転日数 + ②棚卸資産回転日数 の計算式で成り立ちます。端的には、在庫を仕入れてから、販売をして最終的にお金を回収するまでに、どの程度の期間をかけているのかを意味します。

 

 つまり、状況としては、販売する以上に在庫を仕入れており、また、掛売りはして会計上の売上は伸びているけれども、代金は回収できていない売掛金が増えていっていると言えます。このような状態になる場合は、以下のような要因が考えられます。

 

  • 販売以上に在庫を仕入れているなど在庫の管理効率が低くなっている
  • 売上基準が出荷基準ではなく引き渡し基準の場合の海外向けの出荷が増えている。
    (モノが向け先に着かない限りは、売上も立たない)
  • 売上を拡大または維持するために、売掛金回収サイクルを伸ばしている
    (元来30日であった支払いの契約条件を60日するなど)

 これらは、売上を拡大するためにキャッシュ・フローを犠牲している行為であるといえ、お金を回収できない期間は借入で賄い支払い金利が増えてしまうなどのデメリットを伴い、中長期で見ると収益性も悪化していきます。

 

 これが一過性の海外販路拡大のためや一部などであれば良いですが、悪化のスピードが早いので、個人的には大きな懸念点であると考えます。

 

 安全性の指標である当座比率を見ても急速に悪化傾向にあります。当座比率とは、現預金+売掛金などのすぐに支払いに充てられる資産を、1年以内に支払いが到来する買掛金で割った数値です。つまり、直近の支払い予定に対して、どの程度の資産を持っているかを意味します。当座比率はまだ100%以上あるので、予想どおり悪化のスピードが早いのが懸念事項です。

 

 また借入金も大幅に増加しており、金融費用は2018年3月の4億円程度から、11億に増加しており(+7億円)、利益ベースでは▲0.6%の影響となります。このまま金融費用が増加していけば、さらに利益率を低下させていきます。

 

当座比率の推移

(出所: 同社財務諸表より作成。会計基準はIFRS)

 

各事業の事業環境と今後の見通し 

 次に各事業の外部要因的な事業環境をみていきます。

貴金属事業関連の相場動向

 

 貴金属事業に収益に直結する金、資源価格はプラチナ以外は右肩上がりです。パラジウムは自動車の排ガスの浄化処理に必要のため、環境意識の高まりにより需要が高まっています。金に関しては、経済の先行きに対する見通しがよくないことから、リスク回避先の投資先として需要が高まっています。これらの流れは中期的に見ても続いていくと思われるため、貴金属事業の先行きは良いと思われます。

金価格推移 – 期間:1年

(出所: Bloomberg、GC1:COM、2019年9月8日付)

 

 パラジウム価格推移 – 期間:1年

(出所: Bloomberg、XPDUSD:CUR、2019年9月8日付)

 

プラチナ価格推移 – 期間:1年

(出所: Bloomberg、XPTUSD:CUR、2019年9月8日付)

 

 

銀 価格推移 – 期間:1年

(出所: Bloomberg、SI1:COM、2019年9月8日付)

 

産業廃棄物処理事業

 国内の産業廃棄物排出量は概ね横ばいで推移しています。興味深いのは、リーマンショック以降の不況時から今に至るまでそれほど変化が見られないことです。

アサヒホールディングスの産業廃物処理事業に対する安定した需要が今後も有り続けると推論することができるため、この点は好感を持てます。

 

 また供給サイドから考えても、産業廃棄物処理には、各自治体の厳しい許認可が必要でありいきなり需給バランスが崩れることは考えにくいことから、産業廃棄物処理事業は今後も安定推移していくのではないかと考えられます。

 

 

産業廃棄物排出量 – 1996年~2016年

(出所: 環境省報道発表資料)

 

ライフ&ヘルス事業

 

 ライフ&ヘルス事業は、同社の中で違和感を覚える事業ではありますが、売上は既にみたように横ばいで推移しています。

 

 ライフ&ヘルス事業の代表的な商品である、マッサージ・チェアは業界の中で首位を占めているようです。価格コムでのマッサージ・チェアのランキング結果では、フジ医療器の商品の製品が並びます。

 海外ではOsaki, Inada, Human Touch, Fujiiryoki, Titan, OSIMと肩を並べるラグジュアリー・ブランドとして定評があるようです。直近2019年3月期の健康機器の売り上げ収益は前年同期比で減少しているようですが、2017年に海外サイトを立ち上げたということで、海外の販売を伸ばすことができるかが今後の鍵になるかと思います。

 

価格コム – マッサージチェア・ランキング

(出所: 価格コム、2019年9月8日付のマッサージ・チェア人気売れ筋ランキング結果)

 

 マッサージ・チェア以外には、住居内のヒーティング設備なども製造販売しており、健康器具の直近2019年3月期の健康機器の売り上げ収益の減少を相殺するかたちで、このヒーティング設備の売上が伸びています。結果として、既にみたように、ライフ&ヘルス事業の売上は横ばいになっています。

 

 住居内のヒーティング設備の販売が伸びている理由として、高齢者向け住宅件数の増加が背景にあります。自明のとおり、日本は未曾有の超高齢者社会の道を突き進んでいるため、この傾向はまだ続くと思われ、ライフ&ヘルス事業の売上を下支えしていくのではないかと予想します。

 

サービス付き高齢者向け住宅の登録件数の推移

(出所: サービス付き高齢者向け住宅情報システム、サービス付き高齢者向け住宅の最新動向(2019年7月))

 

事業環境は悪くないが、投資対象先としては却下

 

 以上をまとめると、各事業の外部的な環境は悪くないものの、急激な資金回収スピードの低下と当座比率の低下が懸念事項であるという2点にまとめられると思います。

 

 個人的な結論としては、投資対象先としては踏み切ることはできない、という結論になります。

ここは判断が分かれるところでしょうが、それぞれの事業の先行きがよくとも、なにかしらの問題を抱えていることが示唆される指標の動きがある企業に対しては積極的に投資したいとは思えません。

 

 アサヒホールディングスを購入するのであれば、同じ金額を米国株の高配当ETFであるHDVやVYMなどに投資するほうが良いと考えます。

 

 以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

 

 

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