株式とは、均一細分化された割合的単位の形をとった株式会社の社員(株主、出資者、所有者)たる地位のことである。
1 株券
株券とは、株式会社の株主としての地位を表す有価証券のことである。株券の発行は任意であり、株式会社は定款に定めれば株券を発行することができる(会社法第214条。ただし、上場会社では株券電子化が行われているため株券の発行は不可)。なお、株式譲渡制限会社では、定款に株券を発行する旨を定めた場合でも、株主から請求がある時までは株券を発行しなくともよい(会社法第215条4項)。
株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社を株券発行会社という(会社法第117条7項)。
[1]発行可能株式総数と発行済株式総数(会社法第113条他)
発行可能株式総数・発行済株式総数については以下のような規定がある。
1)公開会社では、設立時発行株式の総数は発行可能株式総数の4分の1を下回ることができない(会社法第37条3項本文)。株式譲渡制限会社では4分の1を下回ることは可能である(会社法第37条3項但書)。
2)定款の発行可能株式総数についての定めを廃止することはできない。
3)定款の変更によって発行可能株式総数を減少するときは、発行済株式総数を
下回ることができない。
4)定款の変更によって発行可能株式総数を増加する場合は、公開会社では発行済株式総数の4倍を超えることができない。株式譲渡制限会社では4倍を超えることは可能である。
[2]募集株式の発行等の手続
募集株式の発行等には「新株の発行」と「自己株式の処分」が含まれる。
① 株式譲渡制限会社における募集株式の発行等株式譲渡制限会社では、募集株式の発行等は原則として株主総会(特別決議)によらなければならない(会社法第199条2項、309条2項5号)。ただし、株主総会は、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社においては取締役会)に委任することができる(会社法第200条1項)。委任する場合の株主総会の決議は特別決議である(会社法第309条2項5号)。委任された事項は当該決議の日から1年間有効となる(会社法第200条3項)。
② 公開会社における募集株式の発行等
1)原則(会社法第201条1項)
公開会社では、募集株式の発行等は原則として取締役会決議となる。
2)例外―有利発行の場合(会社法第201条1項、199条2・3項)
有利発行とは、時価に比べて特に有利な価額(=安い価額)で募集株式の発行等を行うことである。
有利発行の場合、株価が下落して、既存の株主に経済的な不利益がもたらされるおそれがある。そこで、公開会社が第二者(既存の株主以外の者)に対して有利発行を行う場合は株主総会(特別決議)が必要である。
[3]検査役の調査(会社法第207条)
設立手続と同様、募集株式の発行にあたって現物出資を行う場合、原則として検査役の調査が必要となる。ただし、以下の場合には検査役の調査は不要となる。
① 現物出資財産の価額の総額が500万円以下の場合、現物出資財産が市場価格のある有価証券であってその価額が市場価格として法務省令で定める方法で算定されるものを超えない場合、現物出資財産の価額が相当であるとして弁護士等の証明を受けた場合(当該財産が不動産である場合には不動産鑑定士の鑑定評価を加えて受けた場合)。
設立手続において検査役の調査を不要とすることができる3つの要件と同じである。
② 現物出資者に対して割り当てる株式の総数が発行済株式総数の10分の1以下の場合。
③ DESにおいて、①当該金銭債権について弁済期が到来していること、②DESの目的となる金銭債権の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合(たとえば、500万円の借入金についてDESをする場合に、割り当てられる株式の価額が500万円を超えない場合)。
3 種類株式
[1]種類株式(会社法第108条1項1~ 9号)
種類株式とは、ある事項について異なる内容を定めた異なる2以上の株式のことをいう。種類株式を発行する株式会社を種類株式発行会社という(会社法第2条13号)。
以下の9つの種類株式が規定されており、株式会社は、その内容および発行可能種類株式総数を定款に定めることによって、種類株式を発行できる(会社法第108条2項本文)。
① 剰余金の配当
①② 残余財産の分配について有利な内容を定める株式を優先株、不利な内容を定める株式を劣後株という。なお、有利でも不利でもなく、基準となる内容の株式を普通株という。
③議決権制限株式
株主総会において議決権を行使できる事項に制限がある株式のこと。議決権の一部について制限することもできるし、全部について制限することも可能である。なお、議決権の全部について制限された株式のことを無議決権株式という。
公開会社では、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えたときは、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式総数の2分の1以下にするための必要な措置(例:議決権を制限していない株式の発行)をとらなければならない(会社法第115条)。なお、株式譲渡制限会社では、議決権制限株式を発行済株式総数の2分の1を超えて発行することに制限はない。
④譲渡制限株式
株式の譲渡による取得について当該株式会社の承認を要する株式のこと。発行する株式のすべてが譲渡制限株式である場合に、株式譲渡制限会社となる。
⑤取得請求権付株式
株主が、当該株式会社に対してその取得を請求することができる株式のこと。転換予約権付株式(普通株から優先株といったように、他の種類の株式に転換することができる権利を与えられた株式)などが該当する。
⑥取得条項付株式
株式会社が、一定の事由が生じたことを条件としてIT又得することができる株式のこと。強制転換条項付株式(あらかじめ定められた条件に従って、株式会社が強制的に優先株から普通株への転換などを行うことができる株式)などが該当する。
⑦全部取得条項付種類株式
株式会社が、株主総会の決議によって当該発行済種類株式の全部を取得することができる株式のこと。0との違いは株主総会決議の有無である。決議の種類は特別決議である(会社法第171条1項、309条2項3号)。
なお、平成26年6月27日に公布された改正会社法により、本店への事前・事後の書面の備置きおよび閲覧義務が創設される(会社法第171条の2、173条の2)。
⑧拒否権付種類株式(通称)
株主総会決議事項(または取締役会設置会社における取締役会決議)について、当該種類株主総会の決議も承認要件に加えた株式のこと。これにより、株主総会で承認された議案について種類株主総会で否決とすることが可能となる。「黄金株」ともいう。
⑨役員選任権付種類株式(通称)
取締役または監査役について(注:会計参与は含まれない)、当該種類株主総会において選任する権限を与えた株式のこと。指名委員会等設置会社および公開会社では発行できない(株式譲渡制限会社であり、かつ指名委員会等設置会社以外で発行可能となる。監査等委員会設置会社でも公開会社でない限り発行可能)。
公開会社で認めてしまうと経営者支配が強くなるため(株主総会の取締役・監査役選任権限が事実上、排除されてしまうため)、指名委員会等設置会社では指名委員会と相容れないことが理由とされる。
[2]種類株主総会
種類株主総会とは、種類株式を有する株主(=種類株主)ごとに開催される株主総会である。前述の役員選任権付種類株式を有する種類株主における取締役・監査役の選任総会などが該当する。
種類株主総会は、会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り決議をすることができる(会社法第321条)。
4 自己株式
自己株式とは、株式会社が有する自己の株式のことである(会社法第113条4項
括弧書)。簡単にいえば、その株式会社自身が発行した株式のことである。
[1]取得(買受けなど)の場合
株主との合意により有償取得する場合、原則として、株主総会(普通決議)が必要である(会社法第156条1項)。また、当該決議の有効期間は1年間である。ただし、分配可能額を超えて買い受けてはならないという財源規制がある(会社法第461条1項3号)。これに違反して買受けを行った業務執行取締役などは、分配可能額を超えた額を株式会社に支払わなければならない(会社法第462条)。
自己株式の取得に関する例外規定にはさまざまなものがあるが、代表的なものを挙げておく。
1)特定の株主から取得する場合は株主総会の特別決議が必要となる(会社法第160条1項、309条2項2号括弧書)。
2)取締役会設置会社が子会社から取得する場合は取締役会決議で可能(会社法第163条)。
3)市場取引または公開買付けにより自己株式を取得する場合は、取締役会設置会社では取締役会決議によって取得できる旨を定款に定めることができる(会社法第165条)。
[2]売主追加請求権(会社法第160条2・3頂、162条、164条)
[1]の1)の場合において、特定の株主以外の株主は、自己を当該特定の株主に追加することを株式会社に請求することができる。これを売主追加請求権という。ただし、株主の相続人その他の一般承継人が相続等により取得した株式を、株式譲渡制限会社が自己株式として取得する場合は、売主追加請求権は認められない。売主追加請求権は、定款によって排除することができるが、このための定款変更には株主全員の同意を得なければならない。
[3]処分(売却など)の場合(会社法第199条1項本文)
原則として、募集株式(「自己株式の処分」は募集株式に含まれる)の規定に従う。
[4]消却の場合(会社法第178条)
株式の消却とは、株主の地位を消滅させることであり、発行済株式総数を減少させることである。
株式会社は、自己株式(のみ)を消却できる。消却できる株式は自己株式に限られるため、発行済株式を消却するためには、自己株式として取得することが前提となる。
消却する際には、消却する自己株式の数などを定めなければならないが、取締役会設置会社において取締役会決議が必要とされる他は特段の規定はない。
[5]相続人等に対する売渡請求(会社法第174~ 177条)
株式会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式の売渡しを請求することができる旨を定款で定めることができる。なお、売渡しの請求には株主総会の特別決議による承認が必要である。相続等によって株式会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐための規定である。
[6]特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条~179条の8)
まず、現金を対価として少数株主を締め出すこと(=株主でなくすこと)をキャツシユアウトと|ヽう。キャッシュアウトをより実現しやすくするために特別支配株主の株式等売渡請求制度が平成26年6月27日に公布された改正会社法により創設される。
具体的には、対象会社の総株主の議決権の10分の9(定款で加重可)以上を有する株主(=「特別支配株主」という)が、特別支配株主以外の株主全員に対して、その所有する株式の全部を特別支配株主に売り渡すことを請求することができるようになる(新株予約権および新株予約権付社債の売渡請求も可能)。この場合、特別支配株主は、対象会社に対して株式等売渡請求に係る通知をし、対象会社の承認を得なければならない。そして、対象会社の承認機関は、取締役会設置会社では取締役会決議となるが、取締役会不設置会社では特段の規定はない。
[7]その他
自己株式には議決権がなく(会社法第308条2項)、剰余金の配当・残余財産の分配もされない(会社法第453条括弧書、504条3項)。
5 株式併合・株式分割・株式無償割当て
[1]株式併含(会社法第180~ 182条) ロコロ四
株式併合とは、数個の株式を合わせてその数よりも少ない数の株式に変更(例:10株を1株とすること)し、発行済株式総数を減少させることである。株主の管理コストの負担が大きいときに、投資単位を適正な大きさに引き上げて管理コストを低減させる目的などに用いられる。
株式併合は、株主の地位に重大な不利益を生じさせるおそれがあるため、どの種類の株式会社でも、株主総会の特別決議が必要である。
なお、平成26年6月27日に公布された改正会社法により、株式併合において本店への事前・事後の書面の備置きおよび閲覧義務が創設されるとともに、端数が生じることになる場合において、端数となるものについて、反対株主の株式買取請求権が創設される(会社法第182条の2~ 182条の6)。
株式買取請求権とは、株主が、自己の有する株式の公正な価格での買取りを株式会社に対して請求できる権利のことである。株式は原則として払戻し(=株式会社に買い取ってもらうこと)が認められていないが、株主に不利益が生じる一定の場合に例外的に払戻しが認められる制度である。
[2]株式分割(会社法第183・184条)
株式分割とは、 1株を1.5株や2株にするなど、発行済株式を細分化して従来より株式の数を増やすことをいう。株式併合の逆の概念である。株式分割は、会社の純資産額を変動させずに発行済株式数を増加させるため、株価を引き下げる効果をもつ。
株式分割は一般に株主に有利な制度であるため、取締役会設置会社では取締役会決議、取締役会不設置会社では株主総会(普通決議)で可能である。
[3]株式無償割当て(会社法第185~ 187条)
株式無償割当てとは、株主に対して、その有する株式の数に応じて、新たな払込みをさせないで(=無償で)、株式を割り当てることである。株式分割は常に同一の種類の株式の分割になるが、株式無償割当ては異なる内容の株式(種類株式)を割り当てることが可能である。
株式無償割当てでは自己株式を株主に交付することができるが、株式分割は株主が有する株式が分割されるだけのため自己株式を株主に交付することはできない。また、株式分割を行うと自己株式も分割されるため自己株式の数も増えるが、株式無償割当てでは自己株式が増えることはない(株式無償割当てで発行会社自身に自己株式を交付することはできない)。
株式無償割当てには、取締役会設置会社では取締役会決議、取締役会不設置会社では株主総会(普通決議)が必要である。ただし、定款で別段の定めをすることができる。Aさんの株式(権利)|よ半分になる。このように、株式併合は株主にとつて不利益が生じるため、株主総会(特別決議)が必要。
Aさんの株式(権利)1ま2倍になる。このように、株式分割は株主にとつて不利益が生じないため、株主総会(特別決議)が不要。
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